#2 入学式 転任時の期待と不安
「佐々木先生は会場準備の担当をお願いします。分からないところは聞きながらやってください。」
職員会議では、ほぼ予想通りの役割をもらった。
いよいよ新天地での幕が上がるのだ。
4月1日。
辞令交付式を終えて、まだ5分咲きの桜並木をくぐり、中学校へ到着する。
玄関に入ると先生方が拍手で迎えてくれた。
そのまま会議室へ行き、お弁当を食べながら談笑をする。この学校ではこうやって新転任の先生方を迎え入れるスタイルらしい。
一緒に赴任したはずの年配の先生は、知り合いの先生と昔話に花を咲かせており、傍から見るともうすっかり馴染んでいるように見える。
3月末の新聞発表で公になり、4月1日に異動となるわけだが、経験を重ねた先生の中には事前にどこら辺に異動になるかをある程度知っている方もいる。
公立の学校とはいえ、色々な事情と環境がその時々にあるわけなので、年齢や教科、部活動など色々な要素を考慮してバランスのとれた異動を行っている。
だから、この先生はバスケット部の顧問につき、生徒指導部に配属されるためにこの学校を選んだ(もしくは選ばれた)のだろう。
反対側をみると、新任の先生が緊張しながらおばちゃん先生(いい意味で)からの質問攻めにあっている。
「彼女さんはいるの?」
「どこから通っているの?」
お決まりの質問にハニカミながら答える青年をみると自分が歳を取ったことを改めて感じる。
近いうちに彼女を連れて食事に行くことになるのは間違いない。
公私にわたって面倒をみてくれる第二のお母さんなのだ。
でも、ここで気に入られて面倒をみてもらえることはとても有難いこと。だと分かるのはもう少し先の話かもしれない。
さて、私は30代の男性で運動部経験者ということもあり、自身の役割というものをある程度分かっているつもりでいる。虚勢を張るつもりはないが、自分の型をきちんと持って臨みたいと思う。やはり最初が肝心。生徒は意識的に、無意識的に、探りを入れて心を許せる相手なのかを見定めに来る。まず最初の仕事は入学式である。
入学式前日。
「こんにちは!」
と元気のいい挨拶でバレー部の生徒が体育館に入ってくる。
ベテランの先生の指導が生き渡った爽やかな部員たち(のように感じた)
中学校では体育館部活の生徒がキビキビ仕事をしてくれるから有難い。
お互いに初めましてだけれど、ここら辺はそんなことはお構いなしに
「ここ引っ張って」「あそこに椅子を4つずつ」
と私は指示を出す。
生徒も知らない先生からの指示だけど素直に言われた通りの行動をする。
このやりとりから既にお互いの関係づくりが始まっている。
(この先生は何部になるのか?学年は?自分との関りは・・・?)
と絶対に考えている。
特に若い先生は学校行事の中心になることが多いので頼りないイメージはなるべく残したくない。最初のイメージは結構重要なのだ。
例えば後に授業で一緒になったときに
「じつは事前にあの時一緒に作業をして・・・すごい助かったんだよ。」
という感じで話をすれば一気に味方にできる。
味方にできるかどうかというよりも、少しでも知っている生徒を増やしたい。
何年目の先生だって緊張や不安は当然ある。
入学式当日での振る舞いもそうだ。
保護者も見ているし、担当の生徒以外からもよ~~~く見られている。
新任の先生と同じ爽やかさは出せないが、私なりに精一杯爽やかさを表現し続ける。
一言挨拶で笑いを取りに行くかどうかも結構重要だ。
うまく言えることも大事だが、最近になって思うのは、
無理をせず自分の得意や楽な色をちゃんと出していくことだ。
真顔で笑いを取りに行って滑る
ことは私にとって今後がすごく楽になる。
そんなことを考えながらも、結局全てが思っている通りには行かないし
そもそもそこまで考えて行動しきれない部分も多い。
ただ、やっぱり先生たるもの学校ではもちろん、
それ以外でも見られている意識は常に持っていて、
24時間のあらゆることが明日の話のネタになり、
頭の隅ではずっと生徒のことを考えているものだ。
と私は思っている。
「今年の1年生はいい」
そんな声を一応は聞くが、なるべく色眼鏡を通さず、
実際にやりとりしてみて感じていきたい。
学力テストの学年平均のデータは・・・
という話は長くなりそうなのでここでは触れないでおこう。
とにかく、中学生の制服を着た可能性一杯の小学生たちと
どう楽しく学校生活を送るかを考えることが
私の生きがい
と言い聞かせている。