#1 入学式 中学生への期待と不安
今日は入学式。
太陽が隠れてはいるが、雨は降っていない。生暖かい風で倒れないように、入学式の看板はしっかり固定されている。
タケルは中学校生活への期待に満ち溢れていた。
もちろん、人並みに不安は持っていたが、それでもやはり、圧倒的に期待の方が勝っていた。
弟と違う環境。そして、姉もついこの間ここを卒業していった。
つまり、僕一人の世界なのだ。
かなり大きめの学ランの裾をあげながら体育館へ入ると、もう完全に中学生だ。
同じ小学校の友達も半分くらいはいるので、緊張はするが、形の上ではとりあえずいつもの「学校生活」とやらに変わりはなさそうだ。
とても仲のいい友達とは違うクラスだったが、とにかく、ここから新しいサクセスストーリーが始まることへの胸の高鳴りは抑えきれない。
げた箱が高い
教室の窓の一が高い
黒板が高い
先輩が大きい
小学1年生に配慮しなくていい校舎のつくりは、中学生への高い壁のように感じられた。
(この高さがこれから自分の見上げる目線かぁと思ってみる)
非常に重要な担任の先生は、比較的若そうなスポーツマンっぽい男の先生だった。
運動が得意な僕には、悪くない。年配のおっとりした先生だと退屈になるだろう。
教室では先生が色々な説明をしている。とにかく堂々と、他の学校出身の生徒にも自然に振舞うことを意識する。
10分休み
今までの友達とおじゃべりして息抜き
そしてまた授業
こんな時は、小学校の時にそこまで仲良くなかった子とも
何故だか自然と話しかけることになる。
知らない環境だと、ちょっとでも知っている人がいたり、共通なことがあったりすると
いつも以上に安心する。
さすがに初日から新しい友達をつくるのはハードルが高い。
でも、見覚えのある顔もちらほら。
あいうえお順で僕の近くにいるこの独特の髪型をしたやつは、少年野球をやっていたころの隣のチームにいた『ボンバー野郎』に違いない。
(うちらのチーム内で勝手にあだ名をつけて盛り上がっていたが実際どんな人かはさっぱり知らない)
友達とめっちゃ陽気に話をしている。
「野球やってたの?俺もだよ。一緒じゃーん。タケル君西小じゃない??」
はい、友達になりました。
グループ同じで共通な話題があったらこうなるよね。
やっているカードゲームも同じならもう遊びに行けちゃう。
対戦チームの時はすごいインパクトだったけど
全然普通でいい人そうじゃん。
(知らない時ってすごく怖くて、顔も変に見えるもんね。)
あっちのグループでは、僕の知らない学校の女の子達が楽しそうに会話をしている。
結構主力グループな雰囲気が漂っている。ちょっと可愛い感じの子もいて、ついつい目線を止めてしまった。
「俺、○○あんま好きじゃないんだよね」
同じ学校だったボンバーがぼそっと言った。
もう完全に僕はボンバーと友達になった。