ココ楽ブログ~見方と在り方と成功について考え、面白さで包んでみた~

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『夢幻鉄道』父さんの父さんのその父さんの思い

はじめに


『夢幻鉄道』は西野亮廣さん発信のパブリックドメインだそうです。

ストーリーや音源の派生が少しずつ広がっています。

私も『夢幻鉄道』の設定を使って作品を作りました。

絵本がベースなので対象は親子です。

よろしくお願いします。


☆☆☆☆☆☆

本文(約4500字)






ぼくは父さんがきらいだ。

いつも、おもちゃをいじってばかりいる。

子どもみたい。



ぼくは母さんもきらいだ。

子どもみたいな父さんをいつもうれしそうに見ている。




「はい、おやつのプリン。お父さんにも持っていって。」

こんなにおいしいプリンをつくれるなら

母さんがおかし屋をすればいいのに。

ぼくは父さんの作業場へ向かった。




「おやつ置いとくよ。」

プリンを置いて、すぐに部屋に戻ろうとしたけれど

ぼくは思わず足を止めてしまった。

「うわぁ、なんだこれ。」

「おっ、ついに見つかったか。すごいだろう。」

父さんはうれしそうに答えた。

目に映ったのは、父さんの背よりも大きなガラクタの山。

けれども、よく見ると確かに電車のように見える。

その電車は色々なものをつぎ合わしてできている。

古くなったロボットやブリキのおもちゃもあれば、工場の鉄くずなんかも使われている。

「ほら、見てみろよ。」

父さんがスイッチを押すと、電車は異様な光りを出してまぶしく輝いた。

でも、ぼくにはその光よりも父さんのきらきらした目の輝きの方がまぶしかった。

「明日から始まる街のフェスティバルへ持っていくんだ。一緒に来るか。」

「いやだよ。一人で行って来なよ。」

父さんは少しさびしそうにしていた。

ぼくは、おかまいなしにドアをパタンと閉めた。





父さんは夕方から旅の支度を始めた。

がさごそ がさごそ

ぼくはその音だけを部屋の中で聞いていた。

がさごそ がさごそ

ぼくは、自分が使っていたおもちゃ箱の中から手のひらサイズの小さな電車を取り出した。

ずいぶん前の誕生日に父さんがくれた電車だ。

「捨てるなよ。」と言われて渡されたのが、へんな感じだったことを覚えている。

ぼくは少しふてくされながらベッドにもぐりこんだ。






なんだかまぶしい。

目を開けるとぼくは暗闇の中に立っていて、ライトに照らされていた。

(父さんの電車? いや、もっと大きいし、もっと立派だ。)

よく見えないけれど、どうやら本物の電車のようだ。

ぼくは電車におそるおそる乗り込んだ。

電車の中は不気味なくらい静かだ。

みんな何の音も立てずに、背すじをのばして前を向いて座っている。

(どこに行くのか みんなは知っているのかな。)





どれくらい電車にゆられただろうか。

ようやく電車は止まった。

空は明るくなっていた。みんなは真っすぐ前を向いたまま歩き始めた。

ぼくも後に続いた。

すぐに昔の商店街みたいなところに着いた。

(あれは、父さん?)

ぼくは父さんのような人の後を追いかけた。



父さんみたいな「その人」はだんご屋へ入っていった。

外から様子を見ていると、話し声が聞こえてきた。

「いつまで毎日毎日おんなじだんごを作ってるんだよう。」

「何がおんなじだと。前のと全然ちがうだろ。毎日毎日どんどんうまいだんごになっているのが分からねぇのか。」

「子どもみたいにいい大人が夢中になってるんじゃないよ。」

「何もしようとしないお前がよく言えたもんだ。」

どうやらその人と店のおやじさんがケンカをしているみたいだった。




この後どうなるんだろう。

そう思っていたら、家の壁が少しずつはがれてきた。

いや、壁だけじゃない。

空もはがれている。

しだいにぼくの見る景色はポロポロとはがれて真っ暗になってしまった。





だいぶ時間が経ったのだろうか。

ぼくは、商店街の路地に立っていた。

今度はだんご屋ではなく、おもちゃ屋の倉庫に目が留まった。

中をのぞくと誰かが壊れた鉄道のおもちゃを一生けんめいに直していた。

(あの人だ)

あの人は、見るからに修理が下手くそだった。

ぼくの父さんのほうが断然手つきがよいと思った。

なんなら僕の方が上手い。



しばらくして男の人が入ってきた。

「おっ、ずいぶん手つきがよくなってきたじゃないか。」

男の人にほめられて、あの人はとてもうれしそうだ。





あの人は直ったのか直ってないのかよく分からない鉄道のおもちゃを抱きかかえて、だんご屋へ入っていった。

「みて、これ。」

あの人は目をきらきら輝かせて鉄道のおもちゃを見せた。

おやじさんは目を細めて

「こりゃあ、大したもんだ。よ~くできている。」

と言って子どもみたいによろこんだ。

「ほれ、食ってみろ。」

今度はおやじさんがだんごをつき出した。

あの人はそれをごうかいにほおばった。

「ん~うまい。この前とは全然ちがうね。」

「そうだろ。分かるようになったじゃねぇか。」

二人はうれしそうに笑った。




だんごを食べながらおやじさんは話し出した。

「よ~く聞けよ。お前が大人になった時に忘れちゃならねぇ大事な話だ。」

「どんな話なの。」

「お前の父ちゃんの、その父ちゃんの、そのまた父ちゃんたちの話だ。」

「そんな人の話、分からないよ。まだ大人になってないもん。」

「まぁたくさん面白い話があるから、少しずつ教えてやるよ。」

「うん。そのうちね。」


ぼくは話の続きを聞きたかったけれど、あの人はうきうきしながらだんご屋を出ていった。






その後、ぼくはおやじさんに声をかけられた。

「おい、ぼうず。こっちへ入りな。」

(見つかってしまった。)

ぼくは静かに店へ入った。

おやじさんはだんごを箱に詰めながら話し始めた。

「ぼうずにはあの話の続きはまだ早えな。」

「どういうこと。」

「なんにでも、ちょうどいいタイミングってやつがあるのさ。まぁいいや。ここへ来たってことは、父ちゃんは元気なんだろ。」

「ぼくの父さんのこと。知ってるの。」

「そりゃあ、ここは、ぼうずの父ちゃんの夢の中だからな。」

「えっ、父さんの夢の中。」

「とにかく、もうすぐ父ちゃんが目を覚ますから急いで電車に乗って帰りな。母ちゃんが心配してるぞ。」

そう言うとおやじさんはぼくの背中を押した。

「そのうちまた来いよ。」

聞きたいことはいっぱいあったけれど、言われたままに急いで電車へ飛び乗った。

また、あの時みたいに景色がはがれ始めていた。







「あ~よかった。やっと目を覚ましたのね。」

母さんの声がして、目を開けた。

ぼくは部屋のベッドの中に戻っていた。

「とにかく良かったわ。あなたは二晩も眠ったままだったのよ。まず心配事の一つが解決してほっとしたわ。」

「母さん、まず一つって、他に何かあったの。」

「お父さんから連絡をもらったの。あなたには言うなって言われたんだけど。」

「いいから教えてよ。」

「実はね。お父さんは街へ行ったんだけど、フェスティバルにはお父さん以外にも、すごいものを作っている人がいっぱいいてね。お父さん、自信を無くしているみたいなの。」

(やっぱり、あんなガラクタみたいなものに興味を持つ人なんかいるもんか。)

けれども、夢の中でも、家でも、あんなに楽しそうだった父さんが落ち込んでいる姿を思うと少し胸が痛んだ。



母さんは話を続けた。

「自信を取り戻してもらういい方法はないかしら。そう言えば、お父さんはね、よくご先祖様の教えのおかげで毎日楽しく暮らしているんだよって話していたんだけど・・・。」

ぼくはそれを聞いてピーンとひらめいた。

「ぼく、その教えが何か分かるかもしれない。今までぼくは父さんの夢の中に行ってたんだから。」

ぼくは夢の中で見たあの商店街のことを話した。

母さんはおどろく様子もなく、やさしくほほえみながらこう言った。

「そう、お母さんにはよく分からないけれど、あなたが言うなら信じるわ。」

「じゃあ、もう一度父さんの夢の中へ行って、教えを聞いてくるね。父さんはその教えを忘れちゃっているんだよ。よし、そうと決まれば、母さん、電車のおもちゃはどこ?」


それを聞くと、母さんはうつむいて言った。

「あの電車はね、壊しちゃったの。あなたが起きなくてお医者さんに診てもらった時にね、手に持っていたおもちゃが原因じゃないかって言われてね。ごめんなさい。」

ぼくの予想では、あのおもちゃが夢の中の電車に乗るきっぷのような役割をしているはずだ。困ったな。どうすればいいだろう。

でも、ぼくは迷わなかった。

「ものしり村長さんのところへ行ってくる。」

ぼくは急いで村長さんのところへ向かってかけ出した。





「村長さん、夢の中へ行く電車のことを教えてほしいんだけど。」

「おやおや、お前さんも夢幻鉄道へ乗るようになったのかい。」

「今夜もう一度乗りたいんだけど、この電車が壊れちゃって。」

村長さんはぼくが持ってきた壊れた電車をじろりとながめて言った。

「夢幻鉄道に乗るのに必要なものなどない。」

「じゃあ、いつでも乗れるの。」

「あの電車は気まぐれじゃから、いつ乗れるかは分からん。そのおもちゃをなつかしく思って迎えに来てくれたかもしれん。が、ただの気まぐれだったのかもしれん。」

「それじゃあ困るんだよ。夢の中ではあの人、しばらく教えはいらないって言ってたんだもの。今夜、父さんは教えを聞かないんだ。」

「だったら、今夜、電車に乗れることを強く信じることじゃな。」






ぼくは夜行列車に乗り込んだ。

正直、不安も残っていた。でも、信じればいいという言葉を信じるのだと強く決めていた。

街のフェスティバルは明日で終わりだ。何としても今夜、教えを聞いて父さんに伝えるんだ。





信じることは、上手くいったらしい。

ちゃんとあの商店街に来ることができた。

ぼくは一目散にだんご屋へ向かった。

「おう、また来たのか。」

おやじさんは、やれやれという顔をしてしたが、ぼくの顔を見るなり真剣な顔つきになった。

ぼくは、どうしてもご先祖様の教えを知らなきゃならないことを一生けんめい伝えた。

「よし、分かった。そういうことなら教えてやる。実はなぁ・・・。」

おやじさんはゆっくりと話し始めた。




なんと、それはご先祖の人たちの失敗談だった。しかも、覚えきれない程たくさんの。

あまりに多すぎて、ぼくは自分が恥ずかしくなった。

「なんだよ、これ。失敗を面白おかしく話してばっかりじゃないか。」

おやじさんがニヤリと笑った。

「あのなぁ。失敗は成功のもとって言うだろう。でもな、失敗は恥ずかしいから隠しちまうんだよ。だからまた同じ失敗をくり返すんだよ。」

「確かにそうかもしれないけど。」

「だろ?だからこうやって夢の中でコッソリ教えてやってるのさ。」

そう言われると、なんだか笑えてきた。

「なるほどね。ところでこの話は、だんご屋だけじゃなく、くつ屋とか、工場とか、遊びの話とか色々あるんだけど、うちは何でも屋さんなの。」

「そうだなぁ。親の仕事を継ぐやつもいれば、絶対に親の仕事はしたくないってやつもいる。まぁ、何でもいいんだよ。自分が楽しくやれてりゃあな。」

「ふ~ん。楽しくねぇ。子どもみたいだけど。」

「子どもの心と子どもの笑顔があれば、世の中平和ってもんよ。」

「ぼくは早く大人になりたいけどね。おっと、じゃあ急ぐから。」

ぼくはおじさんにお礼を言って足早に電車へ戻った。



「早く大人になりたい。か。こんなにうれしい言葉はないねぇ。」

おじさんは独り言をつぶやきながら、だんごをおもちゃの箱へ詰めた。






翌朝、夜行列車は街へ着いた。

父さんのところへ向かいながら、ぼくは村長さんの話を思い出していた。



人は二度死ぬのじゃ。

一度目は肉体が死んだ時。

二度目は忘れられた時。

そして人は忘れる生き物じゃ。忘れたらまた思い出せばいい。

それでも思い出すのを忘れるから、夢幻鉄道が存在するのじゃ。

思い継がれて、夢の中でずっと生き続けて、思い出させてくれる人がおる。

まぁ、わしみたいに全部忘れてしまって、毎回新しいことを感じるのも楽しいがのう。

ほぅ ほぅ ほぅ。






父さんに会いに行くぼくの顔は、いつもより楽しんでいるように見えた。


(おわり)

最後までお読み頂き有難うございます☆